日本酒×スイーツは邪道じゃない — いちご・チョコ・アイスと合わせてみた
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日本酒は食中酒だ。刺身、煮物、揚げ物。料理との相性を語るとき、話題はどうしても「おかず」の方向に向かう。しかし、食事の最後にはデザートがあるし、午後のひとときに甘いものを楽しむ時間もある。そのテーブルに日本酒が登場することは、まだあまり知られていない。
「甘いものに酒?」と違和感を覚える人もいるだろう。しかし、ワインの世界にはデザートワインという確立されたジャンルがある。ソーテルヌやアイスワインは、フォアグラやブルーチーズだけでなく、タルトやアイスクリームとも合わせる。日本酒にも同じことができる。むしろ、日本酒の持つ穏やかな甘みと旨味は、スイーツとの相性において独自の強みを持っている。
大吟醸といちご — 春の贅沢
この組み合わせを初めて試したとき、驚いた。白笹鼓 大吟醸を花冷え(10℃前後)まで冷やし、いちごをひと口かじってから飲む。大吟醸のりんごや洋梨のような吟醸香が、いちごの甘酸っぱさとひとつに溶け合う。果物の香りと果物のような香りの日本酒が出会うのだから、合わないはずがないのだ。
いちごに限らず、フルーツ全般と大吟醸の相性は良い。マスカット、桃、メロン。共通するのは、酸味と甘味のバランスが取れた果物であるということだ。酸味が強すぎる柑橘類よりも、穏やかな甘さを持つ果物のほうが大吟醸には馴染む。フルーツの盛り合わせを用意して、冷やした大吟醸を一本添えるだけで、食後の時間が一気に華やぐ。
春のいちご狩りの帰り道に大吟醸を買って帰る。そんな季節の楽しみ方があってもいい。
純米酒とチョコレート — 旨味の深い出会い
チョコレートと日本酒。意外に思えるかもしれないが、この組み合わせにはしっかりとした根拠がある。チョコレートのカカオにはアミノ酸が豊富に含まれていて、日本酒のアミノ酸と出会うと旨味の相乗効果が生まれる。特にカカオ含有率70%前後のビターチョコレートは、甘すぎずほろ苦く、純米酒の米の旨味との相性が抜群だ。
純米酒をぬる燗(40℃前後)にして、ビターチョコレートのひとかけらと交互に味わってみてほしい。温められた純米酒の米の甘みとチョコレートのカカオの苦味が、口の中で絶妙なバランスを見せる。日本酒の4タイプでいう「醇酒」の旨味の厚みが、チョコレートの複雑な風味を受け止めてくれる。
ミルクチョコレートなら、少し冷やした純米酒のほうが合う。ミルクのまろやかさと冷えた純米酒のすっきり感が、お互いの良さを引き立て合う。バレンタインの時期に「チョコと日本酒」という提案をすると、意外なほど喜ばれることを経験的に知っている。
クラッチュとバニラアイス — 蔵元の裏技
ここでひとつ、蔵元ならではの裏技を紹介したい。クラッチュ 湘南潮彩レモン40をバニラアイスにかけて食べる。これが、驚くほどうまい。
クラッチュは清酒(大吟醸)と醸造アルコールにレモン果汁を40%配合した、金井酒造店ならではのお酒だ。レモンの爽やかな酸味と日本酒由来のまろやかな旨味が共存している。これをバニラアイスに大さじ一杯ほどかけると、レモンの酸味がバニラの甘さを引き締め、アルコールのほのかな刺激がアイスの冷たさと溶け合う。アフォガートのコーヒーの代わりにクラッチュを使う、と言えばイメージしやすいだろうか。
試した人の反応はだいたい同じだ。最初は「え、アイスに酒?」と怪訝な顔をする。ひと口食べて目が丸くなる。二口目からは無言で食べ続ける。蔵の人間が宴会のときにこっそりやっていた食べ方だが、あまりに好評なので正式におすすめすることにした。
和菓子と日本酒 — 本来の相棒
フルーツやチョコレートとの組み合わせを「意外」と書いてきたが、和菓子と日本酒のペアリングは意外でも何でもない。もともと日本酒と和菓子は同じ文化圏で育ってきた存在だ。茶道の世界では、お茶と和菓子の組み合わせが確立されているが、日本酒と和菓子の相性もまた古くから知られている。
大福と純米酒。餅の食感と餡の甘さに、純米酒の米の旨味が加わると、口の中が「米の世界」で満たされる。羊羹のしっかりとした甘さには、少し辛口の本醸造が合う。どら焼きにはぬる燗の純米酒。和菓子の穏やかな甘さは、日本酒の穏やかなアルコールと同じリズムを持っている。
洋菓子に比べて和菓子は甘さの質が異なる。砂糖のストレートな甘さではなく、小豆や米の素材に由来する穏やかな甘さ。この穏やかさが日本酒の味わいと同調するから、和菓子と日本酒は喧嘩しないのだ。
デザートの時間に日本酒を
食事の締めにデザートを食べるとき、多くの人はコーヒーや紅茶を選ぶ。もちろんそれで良い。ただ、選択肢の中に日本酒があっても良いのではないか、という提案をこの記事ではしたかった。
日本酒とは何かを考えるとき、「食中酒」という枠だけに収めてしまうのはもったいない。日本酒は食前にも食中にも、そして食後にも寄り添える。デザートとのペアリングは、日本酒の懐の深さを最も鮮やかに示してくれる体験だろう。
今夜の食後に、冷蔵庫の日本酒を一杯だけ注いで、何か甘いものと合わせてみてほしい。チョコレートでもフルーツでもアイスでも大福でも良い。「日本酒がこんな相手と合うのか」という小さな驚きが、日本酒の世界をまたひとつ広げてくれるはずだ。
この記事で紹介したペアリングを試すなら、まずは白笹鼓 大吟醸を花冷えに冷やしていちごと合わせるところから始めてみてほしい。りんごのような吟醸香といちごの甘酸っぱさが溶け合う体験は、日本酒の印象を一変させる。もうひとつ、クラッチュ 湘南潮彩レモン40をバニラアイスにかけるアフォガート風は、蔵の人間が太鼓判を押す裏メニューだ。レモンの酸味とバニラの甘さが出会った瞬間の驚きを、ぜひ自宅で味わってみてほしい。