秦野の日本酒造り
秦野市唯一の蔵元「金井酒造店(かねいしゅぞうてん)」では、およそ半年間にわたる酒造りが始まる。
半年間にわたる秦野の日本酒造り
毎年11月初旬に入ると、これから約半年間、神奈川県秦野市唯一の酒蔵「金井酒造店」で日本酒造りの仕事が始まる。
過去約40年、金井酒造店では越後杜氏の内山正さんを招いて酒造りを行ってきたが、現在ではその匠の技を神奈川県出身杜氏の米山 和利へと受け継がれている。
米と水を選ぶ
大粒の軟質米で表面は硬くて中は柔らかいという特製を持ち、米の芯まで麹菌が入りやすい。
山田錦が高級種として有名で様々な酒蔵で支持されている。
「金井酒造店」では兵庫産の山田錦で造った「白笹鼓(しらささつづみ)」が代表的な日本酒だ。
そして水へのこだわり。
何とかそのクセをなくそうと努力したが、どうにもならない。
酒造りの過程を何度も見直しクセは取れないか研究を重ねた結果、クセが出る原因は秦野の水道水のせいだった。
秦野は言わずと知れた名水の里。水道水でも十分おいしいと思っていたが、厳選された酒造りの水としては適さなかったようだ。
井戸を掘ってもあの場所ではダメだった。
それは、同じ秦野でも地区によって水質が違う。
そこで現在の場所に移って約150m位の深さに井戸を掘り、その井戸水を使用したところ、今までどんなに努力しても直らなかった酒のクセがすんなりと直ったのだ。
酒の味も軽くなった。
永年、杜氏を悩ませていた問題は現在の堀山下に酒蔵を移すことで解決したのだった。
蒸米(むしまい)
製麹(せいきく)
蒸米が終わると製麹の工程に入る。
麹は蒸した米に麹菌をまぶしたものを麹室(こうじむろ)というサウナ室のような部屋で2昼夜寝かせて造られる。
酒造りの作業の中で最も重要で、最も難しいといわれるのがこの麹造り。
麹室に付着した浮遊している麹菌の胞子が、その麹室独特の麹を造り上げるといわれているからだ。
この麹室の環境で酒の味は大きく変化してくる。
酒母(しゅぼ)
およそ半月ほどかけて小さなタンクの中で蒸し米と麹で作った甘酒状態の中で酵母を培養し、増やしておく。
これが酒の「もと」ともいわれる酒母である。
温度が高すぎると味が充分出ないうちに発酵し過ぎてしまうので、微妙な温度調整が難しい。
冷温器で冷ましながらの作業である。
醪(もろみ)仕込み
上槽(搾り)
仕込まれた醪(もろみ)は約20日間ほどで成熟し、上槽(じょうそう)と呼ばれる搾り作業に入る。
この作業は簡単にいえば酒袋に醪を入れて圧力をかけて濾す作業。
「金井酒造店」では一つの仕込み分を1日で搾ってしまうアコーディオン式のほかに、「船」と呼ばれ人力を必要とする旧来の機械も使用している。
この作業は丸2日間の時間と人手がかかってしまう。
しかし、純米酒や吟醸酒を搾る時、1日目のものは1番搾りといって、2日目のものより味が良い。
アコーディオン式のものでは一つの仕込みは、みんな一緒になってしまうし、ガスが抜けきれない。
本当に良い日本酒は、これで搾らなければならない。
人手を掛ければ掛けるほど、酒はその味わいを深めていくようだ。
できたての生の濁り酒
12月中旬、上槽(搾り)が終わった生酒はそのままタンクの中で静かに貯えられる。
「生酒」「生貯蔵」「貯蔵酒」など、ここから最後の仕上げでその名も変化する。酒の種類によっても処理の仕方は違ってくる。
例年(※2019年頃まで)12月下旬ごろになると、「金井酒造店」にはできたての生の濁り酒を求めて、地元の酒好きの人々から催促が来る。
濁り酒は発酵しやすいため、この出来立てを手に入れなければならないからだ。
火入れ作業
年が変わり3月に入ると「金井酒造店」では静かに貯えていた生酒の火入作業にかかる。
「貯蔵酒」の場合はそのまま貯蔵していると夏季に腐敗を起こし、酒の味も著しく落ちてしまうので、約2ヶ月間寝かせた後に火入れという作業が欠かせないのだ。
この火入れによって酒の酵母菌も死滅し、それまでは緩やかに進んでいた発酵も止まる。
そして清酒は再び「金井酒造店」のタンクの中で約半年間に及ぶ静かな眠りに入る。