余った日本酒、捨てるのは待って — 料理・風呂・化粧水になる
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蔵元としての本音を最初に書いておく。日本酒は、できれば早く飲んでもらえると嬉しい。開栓した瞬間から風味は少しずつ変化していくし、造り手が意図した味わいを最も楽しめるのは開けたてだ。冷蔵庫に入れていても、一週間、二週間と経てば香りは落ち着き、味のバランスは変わっていく。
とはいえ、現実には飲みきれないことがある。四合瓶を開けたけれど一人では飲みきれなかった、お歳暮でもらった一升瓶が冷蔵庫の奥に眠っている、引っ越しの片付けで忘れていた一本が出てきた。そういう場面は誰にでもある。捨てるのはもったいないし、かといって無理に飲むのも楽しくない。
だから、飲みきれなかった日本酒の「第二の人生」について、蔵元の立場から正直に書いてみたい。
まず確認してほしいこと
余った日本酒がまだ飲めるかどうかは、色と香りで判断できる。透明だった酒が黄色や琥珀色に変わっていたら、それは熟成が進んでいる証拠だ。ツンとした酢のような香りがする場合は酢酸発酵が進んでいる可能性があり、飲むのは避けたほうがいい。しかし、少し色が変わった程度であれば、味は変わっていても飲めないわけではない。熟成によって角が取れ、まろやかになっていることもある。
日本酒の保存方法を知っておくと、そもそも余らせてしまう前に適切に管理できる。冷蔵保存、遮光、立てて保管。この三つを守るだけで、開栓後の変化はかなり抑えられる。
料理に使う — これが最も実用的
飲みきれなかった日本酒の最も賢い使い道は、料理に使うことだ。日本酒はもともと料理酒として優れた性質を持っている。アミノ酸が旨味を加え、アルコールが素材の臭みを飛ばし、糖分が照りとコクを与える。スーパーで売っている料理酒よりも、飲用の日本酒のほうが料理に使ったときの仕上がりは格段に良い。料理酒には塩分が添加されているものが多いが、飲用の日本酒にはそれがないからだ。
煮物に使うのが最もわかりやすい。肉じゃが、筑前煮、角煮。水の一部を日本酒に置き換えるだけで、出汁の旨味に奥行きが出る。みりんの代わりに使うこともできる。みりんほどの甘さはないが、そのぶん上品な仕上がりになる。
魚料理との相性は特に良い。魚の煮付けに日本酒を加えると、臭みが驚くほど消える。アルコールが蒸発するときに、魚の生臭さの原因であるトリメチルアミンを一緒に飛ばしてくれるからだ。鯖の味噌煮、鰤の照り焼き、アクアパッツァ。和洋を問わず、魚を扱う料理には日本酒を入れておくといい。
炊飯のときに少量加えるという方法もある。米二合に対して大さじ一杯ほどの日本酒を加えて炊くと、ふっくらとした甘みのあるご飯になる。古米のパサつきを抑える効果もあるので、米の状態が気になるときに試してみるといい。
日本酒風呂にする
料理に使い切れないほど量がある場合は、お風呂に入れてしまうのも手だ。浴槽にコップ一杯から二杯を注ぐだけで、日本酒に含まれるアミノ酸が肌をしっとりさせ、血行促進で体が芯から温まる。特に冬場は湯冷めしにくくなるので実用的だ。香りも悪くない。ほのかに麹の甘い香りが漂って、ちょっとした贅沢感がある。
飲むには風味が変わりすぎた古い日本酒でも、風呂に使うぶんには問題ない。美容に関わるアミノ酸やコウジ酸は、風味が変化しても失われていないからだ。
無理に飲まなくていい
蔵元として「早めに飲んでもらえると嬉しい」と書いたが、「無理に飲んでもらいたい」わけではない。日本酒は楽しむためのものであって、義務で飲むものではない。開栓して時間が経ち、自分の好みから外れた味になってしまったなら、料理に使ったり風呂に入れたりするほうが、その一本を最後まで活かすことになる。
日本酒とは何かを知れば知るほど、一本の酒に込められた手間の大きさがわかる。だからこそ、最後の一滴まで何らかの形で使い切ってもらえたら嬉しいと蔵元は思っている。飲むのが一番嬉しいが、料理を美味しくしてくれるなら、それもまた日本酒の立派な仕事だ。
とはいえ、余らせないのが一番ではある。金井酒造店の酒は720mlの四合瓶が中心だから、一人でも二、三日で飲みきりやすいサイズになっている。開けたら美味しいうちに飲みきって、次の一本を開ける。そのリズムが、日本酒を一番おいしく楽しむコツだと蔵元は思う。