日本酒をワイングラスで飲む理由|香りが変わる、印象が変わる
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日本酒の香りを楽しみたいなら、ワイングラスで飲んでみるのがおすすめだ。同じ大吟醸でも、おちょこで飲むのとワイングラスで飲むのとでは、鼻に届く果実香がまるで違う。洋梨のような甘い香りが立って、別の酒かと思うほどだ。
うちの蔵で一部の商品にワイングラス推奨と書いているのも、この違いが理由だ。
なぜ器を変えるだけで味が変わるのか
※ 写真はイメージです
理由はシンプルで、香りの集まり方が違う。
ワイングラスはボウル部分が膨らんでいて、口がすぼまっている。液面から立ち上った揮発成分がボウルの中に溜まり、すぼまった口元から集中して鼻に届く。おちょこは口が大きく開いているから、香りが周囲に散ってしまう。
日本酒の味覚は、舌で感じる甘み・酸味・旨味と、鼻で感じる香りの合算だ。香りが2割増えるだけで、同じ酒が別の飲み物に感じられる。
つまり、器は味のフィルターになっている。
これはワインの世界では常識だけれど、日本酒でも同じことが起きる。むしろ吟醸香のある酒ほど、器の影響は大きい。
ワイングラスで映える日本酒の特徴
すべての日本酒がワイングラスに向くわけではない。相性がいいのは、吟醸香——つまりカプロン酸エチルや酢酸イソアミルといったフルーティな香り成分を多く含むタイプだ。
具体的にはこのあたり。
- 純米大吟醸・大吟醸 — 精米歩合が高く、華やかな香りが出やすい
- 生酒・生貯蔵酒 — フレッシュな果実感が残っている
- 酸味の効いたタイプ — ワイン的な酸がグラスの形状と合う
うちの黒笹 Edenは、まさにこの系統だ。ラベルにもワイングラス推奨と入れている。グラスに注ぐと、冷蔵庫から出したばかりの白桃のような香りが立つ。おちょこでは気づかなかった香りが、グラスで初めて見える。
ワインから日本酒に興味を持った方なら、吟醸系から入ると違和感が少ないと思う。ワインのような日本酒の選び方もまとめてあるので、あわせてどうぞ。
ワイングラスに向かない日本酒もある
逆に、ワイングラスだと持ち味が出にくい酒もある。
燗酒として設計された本醸造や純米酒は、温度を上げることで旨味が開くように作られている。これを冷やしてワイングラスに入れても、閉じた印象のまま終わってしまうことがある。
熟成酒も注意が必要で、紹興酒のような複雑な香りがグラスの中で強くなりすぎることがある。この手の酒はぐい呑みや陶器の器のほうが、香りが適度に逃げてバランスが取れる。
器に正解はない。酒と器の組み合わせに、合う・合わないがあるだけだ。
グラスの形状で香りの出方も変わる
※ 写真はイメージです
ワイングラスにもいろいろ形がある。日本酒で試した感覚を整理すると——
ブルゴーニュ型(丸く大きいボウル) は、香りを大きく開かせるのが得意だ。大吟醸のように繊細で華やかな香りの酒に合う。ボウルが大きいぶん液面も広くなり、揮発成分がたっぷり立ち上る。
ボルドー型(やや縦長のボウル) は、香りを適度にまとめる。酸やアルコール感がしっかりした生酛系の純米酒など、力のある酒にはこちらのほうがバランスが取りやすい。
迷ったらブルゴーニュ型を一脚試してみるのがおすすめだ。日本酒に限らず万能で、失敗が少ない。IKEAやニトリで1脚数百円のもので十分だ。高いグラスでなくても十分だと思う。
「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」という大会がある
あまり知られていないが、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」 という品評会が毎年開催されている。2011年から続いていて、全国の蔵元が出品する。
この大会の審査は、その名の通りワイングラスに注いだ状態で行われる。おちょこや蛇の目の利き猪口ではなく、グラスで評価する。つまり「グラスで飲んだときにどう感じるか」を基準にしている審査だ。
受賞酒リストを見ると、やはり吟醸系・フルーティ系が目立つ。ただ、意外なことに純米酒カテゴリもあって、香りだけでなく「口当たりや旨味がグラスでどう映えるか」も評価対象になっている。
この大会の存在自体が、「日本酒はおちょこで飲むもの」という固定観念が変わりつつある証拠だと思う。
器を変えるだけで、日本酒の楽しみ方は一段階広がる。
家にワイングラスが一脚あるなら、今夜の晩酌で試してみるといい。同じ酒をおちょこと並べて飲むだけでいい。違いは、鼻が教えてくれる。逆に「温度で味を変えたい」という人には、燗酒という正反対のアプローチもある。冷やしてグラスで香りを楽しむか、温めて旨味を開かせるか。同じ一本で両方試せるのが日本酒の面白さだ。