日本酒とワインの違い|同じ醸造酒なのに、こんなに違う理由

ワインと日本酒を飲み比べてみると、同じ「醸造酒」のはずなのに口に含んだ瞬間の感覚がまったく違うことに気づく。ワインには果実の酸味がすっと走って、日本酒にはふわっとした甘みと旨みが広がる。

この違いの「根っこ」は、原料と発酵の仕組みにある。同じ醸造酒というカテゴリに入っているのが不思議なくらい、日本酒とワインは別の飲み物だ。

ワインから日本酒に興味を持った方にはワイン好きのための日本酒入門も参考になると思う。

日本酒とワインの違い|同じ醸造酒なのに、こんなに違う理由 ※ 写真はイメージです

原料の違い — 糖があるか、ないか

ワインの原料はブドウ。日本酒の原料は米と水。ここまでは誰でも知っている。でも、この違いが発酵のプロセスを根本から変えてしまうことは、意外と知られていない。

ブドウには最初から糖分が含まれている。果汁を搾れば、そこにはすでに発酵の「燃料」がある。酵母を入れれば糖を食べてアルコールに変えてくれる。シンプルだ。

米にはその糖がない。あるのはデンプンで、酵母はデンプンを直接食べられない。だからまずデンプンを糖に変える工程が必要になる。ここで登場するのが麹菌だ。蒸した米に麹菌を振りかけて、デンプンを糖に分解する。この「糖化」というステップが入るだけで、酒造りの難易度が一気に上がる。

ワインの醸造家は「いいブドウを育てれば、あとは自然が酒にしてくれる」とよく言う。実際、野生酵母だけで発酵させるナチュラルワインもある。米はそうはいかない。糖化と発酵という二つの生化学反応を同時に管理しなければ、酒にはならない。

原料に糖があるかないか——たったこれだけの差が、二つの醸造酒の性格をまったく別のものにしていると感じる。

発酵の仕組み — 単発酵と並行複発酵

ワインの発酵は「単発酵」と呼ばれる。糖を酵母がアルコールに変える。一方向の反応で、わかりやすい。

日本酒は「並行複発酵」だ。麹がデンプンを糖に変える「糖化」と、酵母が糖をアルコールに変える「発酵」が、同じタンクの中で同時に進行する。

冬場の蔵で醪(もろみ)のタンクを覗くと、この並行複発酵が目の前で起きている。タンクの中は泡立っていて、ぷくぷくと炭酸ガスが上がってくる。表面に泡の層ができて、日ごとに形が変わる。麹が糖を作るスピードと、酵母が糖を消費するスピードのバランスを取りながら、温度を0.5℃単位で調整していく。どちらかが速すぎると味が崩れる。

この「二つの反応を同時に制御する」というのは、世界の醸造酒の中でもかなり特殊な方法だ。ビールも糖化と発酵を行うが、工程は分かれている(まず麦芽で糖化してから、別の容器で発酵する)。同時進行させるのは日本酒だけと言っていい。

並行複発酵は手間がかかる。でも、この複雑な仕組みが日本酒のあの多層的な味わいを生んでいる。

アルコール度数 — なぜ日本酒のほうが高いのか

ワインのアルコール度数は12〜14度あたりが多い。日本酒は原酒だと17〜20度、加水して調整した製品でも15〜16度が標準だ。

この差も、発酵の仕組みから来ている。

ワインの場合、ブドウの糖分には限りがある。糖を全部アルコールに変えても、到達できる度数には天井がある。だいたい14〜15度あたりで糖がなくなるか、酵母がアルコールの毒性に負けて活動を止める。

日本酒の並行複発酵では、麹が糖を「作り続ける」。酵母のそばに常に新しい燃料が供給される状態なので、発酵がより長く、より深く進む。結果として、醸造酒としては世界でもトップクラスの度数に達する。蒸留せずにここまで度数が上がる酒は珍しい。

最近は「低アルコール日本酒」として13度前後に仕上げた銘柄も増えている。ワインと同じくらいの度数帯で、食事に合わせやすいと評判がいい。焼酎と日本酒の違いで触れたように、蒸留酒はまた別の話になる。醸造酒同士の比較という点では、カロリーや糖質の差も気になるところだ。日本酒とワインのカロリー比較で詳しく数字を出しているので、健康面が気になる方はそちらもどうぞ。

日本酒とワインの違い|同じ醸造酒なのに、こんなに違う理由(2) ※ 写真はイメージです

温度帯 — 5℃から60℃まで

ワインの飲用温度は、白なら8〜12℃、赤なら14〜18℃。常温に近い温度で飲むこともあるが、基本的には「冷やすか、少し戻すか」の二択だ。ホットワインもあるにはあるが、あれはスパイスや砂糖を入れた別の飲み物に近い。

日本酒の温度帯は異常に広い。キンキンに冷やした5℃の「雪冷え」から、60℃を超える「飛びきり燗」まで。しかも温度帯ごとに名前がついている。花冷え、涼冷え、常温、日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、飛びきり燗——同じ一本の酒が、温度を変えるだけで別の表情を見せる。

冷やすと香りが立ち、酸味が際立つ。温めると旨みが膨らんで、丸い口当たりになる。冬に熱燗で飲む純米酒と、夏に冷やして飲む吟醸酒では、もはや別の飲み物だ。

ワインが「適温」を探すのに対して、日本酒は「今日はどの温度で飲もうか」から始まる。この幅の広さは、他の醸造酒にはない特徴だ。

テロワールとヴィンテージ — ワインの専売特許ではなくなってきた

ワインの世界では「テロワール」という概念がある。土壌、気候、地形、水はけ——ブドウ畑の環境が酒の味を決める、という考え方だ。ブルゴーニュの畑とボルドーの畑では、同じ品種のブドウを植えても全然違う味になる。ヴィンテージ(収穫年)によっても味が変わる。当たり年、外れ年がはっきりしている。

日本酒は長らく「均質であること」が求められてきた。同じ銘柄なら毎年同じ味であるのが理想だ、と。だから杜氏は原料米や気候の変動を技術で吸収して、味をそろえることに腕をふるってきた。

ところが最近、この常識が変わりつつある。

特定の田んぼの米だけで醸す「テロワール日本酒」を打ち出す蔵が出てきた。収穫年をラベルに記載する「ヴィンテージ日本酒」もある。ワインのように「土地と年の個性」を楽しむ日本酒が、少しずつ増えている。

水の違いも、テロワールの一部だ。秦野の丹沢山系から湧く中硬水と、京都伏見の軟水では、同じ製法でもまったく違う酒ができる。日本酒にもテロワールはある——ただ、それを「テロワール」と呼んでこなかっただけなのかもしれない。

ワインが好きで日本酒にも興味がある方は、ワインのような日本酒の選び方が入り口になるかもしれない。

似ているからこそ、違いが面白い

日本酒とワインは、どちらも穀物や果実を発酵させた醸造酒だ。蒸留しないから原料の個性がダイレクトに味に出るし、食事との相性を楽しむ文化がある。そこは共通している。

でも、原料の性質ひとつで発酵の道筋が分かれ、度数が変わり、飲み方の幅が変わり、文化そのものが枝分かれしていく。同じ「醸造酒」というくくりにいるのに、こんなに違うのが面白い。

どちらが上、ではない。ワインにはワインの奥行きがあるし、日本酒には日本酒でしか到達できない味の領域がある。両方飲む人が増えれば、それぞれの良さがもっと見えてくるはずだ。


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