葉タバコ農家のための酒から始まった — 白笹鼓と秦野たばこ祭の話
Share
葉タバコ農家のための酒から始まった — 白笹鼓と秦野たばこ祭の話
毎年9月、秦野市の中心部がにぎわう。神輿が出て、山車が練り歩き、屋台が並ぶ。「たばこ祭」と呼ばれるこの祭りは、秦野市最大の市民まつりだ。
なぜ「たばこ」なのか。秦野がかつて、葉タバコの一大産地だったからだ。そしてその歴史は、金井酒造店がここに蔵を構えた理由とも、深く結びついている。
秦野は葉タバコの町だった
明治から昭和にかけて、秦野盆地は神奈川県内有数の葉タバコ産地として知られていた。丹沢山系から流れ込む伏流水と、盆地特有の昼夜の寒暖差が、品質の高い葉を育てた。
農繁期になると、地元の農家だけでは手が足りない。遠くから季節労働者が集まり、夏の炎天下で葉を摘み、乾燥させ、出荷する作業が続いた。肉体を限界まで使う、重い仕事だった。
労働者が求めた酒
蔵に残る記憶として語り継がれてきた話がある。
当時の白笹鼓は、今とはずいぶん違う酒だったという。もっと濃く、もっと甘く、飲んだらじんと体に染みるような、濃醇旨口の酒だった。
それは、そういう酒が求められていたからだ。
炎天下で汗をかき、体力を使い果たした後の一杯には、さらりとした酒より、コクと旨みがある酒の方が体に入る。エネルギーを補うような、食べるに近い飲み物。葉タバコ農家の労働者たちが飲んでいたのは、そういう酒だったと伝わっている。
金井酒造店が明治元年(1868年)にこの地に創業したのは、その需要があったからとも言える。秦野盆地の水と米を使い、秦野で働く人たちのために酒を醸す。それが出発点だった。
酒は変わった。でも土地は変わらない
時代が変わり、葉タバコ農業は衰退した。秦野の主産業は変わり、農繁期に大量の季節労働者が集まることもなくなった。
酒質も、少しずつ変わっていった。現代の食生活に合わせて、白笹鼓は淡麗に近づいていった。今のラインナップは、かつての濃醇旨口の面影よりも、食中酒として料理を邪魔しない端正な味わいを持つ。
ただ、一つ変わっていないことがある。
仕込み水は今も、秦野盆地の伏流水だ。名水百選に選ばれた、丹沢山系からゆっくりと染み込んできた水。葉タバコ農家の労働者たちが飲んでいた酒も、今の白笹鼓も、同じ水から生まれている。
たばこ祭は、秋の記憶を祝う
毎年9月に開かれるたばこ祭は、葉タバコの収穫期が終わった秋の感謝と祝いが起源にある。産業としての葉タバコはほとんど残っていないが、祭りは続いている。
それはこの町が、その歴史を忘れていないということだと思う。
金井酒造店もこの祭りに出ている。蔵から歩いてすぐ、秦野のど真ん中で。労働者の一杯として始まった酒が、今は祭りの喧騒の中で飲まれている。用途も文脈も変わったけれど、秦野の人たちの秋の一日に混じっているのは、昔と変わらない。
レモンサワー、累計1000杯
去年のたばこ祭で、一つ記録が生まれた。
金井酒造店のブースで提供したクラッチュ 湘南潮彩レモン40のレモンサワーが、2日間で累計1000杯を超えた。
葉タバコ農家の重労働を支えた酒の話をしておいて、いま一番飲まれているのがフルーティーなレモンサワーというのは、少し笑える話かもしれない。でも考えてみれば、変わっていない部分がある。炎天下の祭りで体を動かして、祭りの夜に仲間と囲む一杯。それが一番うまい、ということは、昔も今も同じだ。
2026年のたばこ祭
開催日: 例年9月下旬(最新の日程は秦野市・実行委員会の公式発表をご確認ください)
会場: 秦野市中心部(クリエ・カルチャーパーク周辺)
金井酒造店の出店: あり。今年も湘南潮彩レモン40のレモンサワーを提供予定
去年1000杯を超えたレモンサワー、今年はもっと多くの人に飲んでもらいたい。
祭りの日に秦野に来るなら、蔵元直売所にも立ち寄ってほしい。たばこ祭の喧騒が終わった後の静かな時間に、一本持って帰るのもいい。
あわせて読みたい
-
白笹鼓の全ラインナップ
-
秦野で飲める湧き水スポット5選
-
秦野の名水とそば — なぜここのそばはうまいのか(近日公開)