焼酎と日本酒の違い|造る側から見ると、じつは根っこが同じだった
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蔵で仕込みをしていると、見学に来た人から「これ、蒸留はしないんですか?」と聞かれることがある。日本酒を造っている現場なのだけど、酒蔵と聞くと焼酎も一緒に造っていると思う人は意外と多い。
気持ちはわかる。どちらも日本の酒で、どちらも米や麹を使う。スーパーの棚でも隣に並んでいることが多い。でも、造りの現場に立ってみると、ある工程を境にまったく別の飲み物になっていく。その分岐点がどこにあるのか、蔵の中の景色から書いてみたい。
原料の違い — 米だけ、とは限らない
日本酒の原料は米・米麹・水。基本的にはこれだけだ。醸造アルコールを加える本醸造や普通酒もあるけれど、発酵の主役は米。精米歩合を変えることで大吟醸や純米酒といった分類が生まれる。
焼酎はもう少し幅が広い。芋焼酎なら芋、麦焼酎なら麦、米焼酎なら米、黒糖焼酎なら黒糖。原料のバリエーションが多いのは焼酎の面白さだと思う。ただ、どの焼酎にも共通しているのは麹を使うということ。芋焼酎でも麦焼酎でも、一次仕込みでは必ず米麹(または麦麹)が登場する。
つまり、原料は違っても「麹でデンプンを糖に変える」という出発点は同じ。ここがまず面白い。
日本酒は米一筋、焼酎は原料の選択肢が広い。でも麹を使うという土台は変わらない。
造り方の分岐点 — 蒸留するか、しないか
※ 写真はイメージです
日本酒の仕込みで一番長い時間を過ごすのは、醪(もろみ)の管理だ。タンクの中で米と麹と酵母がゆっくり反応していく。糖化と発酵が同時に進む「並行複発酵」という仕組みで、これは世界のお酒の中でもかなり珍しい。20日から30日ほどかけて醪が仕上がったら、搾って液体と固体(酒粕)に分ける。この搾った液体が日本酒になる。
蒸留は、しない。
焼酎はここから先がある。一次仕込みで麹と酵母を使って発酵させたあと、芋や麦などの主原料を加えて二次仕込みを行う。そしてこの醪を蒸留器にかける。蒸気で加熱してアルコールを気化させ、冷やして液体に戻す。この工程が蒸留だ。
蒸留すると何が起こるか。アルコール度数が一気に上がり、水分や旨味成分の多くが蒸留器の底に残る。揮発性の高い香り成分はアルコールと一緒に上がってくるので、芋の甘い香りや麦の香ばしさは残る。でも、米や芋の旨味そのものはかなり削ぎ落とされる。
うちの蔵では蒸留器を持っていないので、仕込んだ醪はすべて搾りに向かう。蒸留すれば焼酎になるし、搾れば日本酒になる。同じ醪から別の酒が生まれるというのは、シンプルだけど、けっこう本質的な違いだと思う。
蒸留するかしないか。たったひとつの分岐で、日本酒と焼酎は別の飲み物になる。
味の違い — 旨味が残るか、飛ぶか
蒸留の有無は味にはっきり出る。
日本酒を口に含むと、米由来の旨味と甘みが舌の上に広がる。アミノ酸や有機酸がそのまま液体の中に溶けているからだ。大吟醸ならフルーティな吟醸香、純米酒ならふくよかな米の味わい。どちらも発酵で生まれた成分がそのまま残っているから感じられるもので、蒸留を通したら消えてしまう。
焼酎の味わいは、もっとシャープだ。芋焼酎の甘い香り、麦焼酎の軽やかさ、米焼酎の穏やかな米感。これらは蒸留で残った揮発性成分によるもので、原料の旨味そのものとは少し性質が違う。だから焼酎はすっきり飲める反面、日本酒のような「口の中で広がる厚み」は出にくい。
どちらが良い悪いという話ではない。揚げ物にはキリッとした焼酎が合うし、刺身には旨味のある日本酒が合う。蒸留で削ぎ落とすか、発酵のまま残すか。その違いが、料理との組み合わせまで変えていく。
度数と飲み方の違い
日本酒のアルコール度数は15%前後が一般的で、原酒でも18〜20%くらい。そのまま飲めるし、冷やしても燗にしてもいい。温度帯で味が変わるのが日本酒の面白いところで、同じお酒でも冷酒と熱燗ではまるで違う表情を見せる。
焼酎は蒸留直後の原酒で35〜45%。加水して25%や20%に調整して出荷されることが多い。ストレートでも飲めるが、ロック、水割り、お湯割り、ソーダ割りと飲み方のバリエーションが広い。割り方次第で自分好みに調整できるのは焼酎ならではの楽しみ方だろう。
目安としてまとめておくと:
- 日本酒 — 15%前後。そのまま飲む。冷酒〜熱燗まで温度帯を変えて楽しむ
- 焼酎 — 25%前後(原酒は35〜45%)。割って飲むことが多い。ロック・水割り・お湯割り・ソーダ割り
最近は日本酒のハイボールのように日本酒をソーダで割る飲み方も出てきていて、この境界は少しずつ曖昧になってきている。焼酎好きの人にはぜひ一度試してみてもらいたい飲み方だ。
じつは根っこが同じ — 麹で造る日本の酒
※ 写真はイメージです
ここまで違いばかり書いてきたけれど、造る側の実感としては「根っこは同じ酒だな」という感覚がある。
日本酒も焼酎も、核になっているのは麹の力だ。麹菌が米や麦のデンプンを分解して糖に変え、その糖を酵母がアルコールに変える。この二段構えの仕組みは、世界の酒造りの中で東アジア特有のものだ。ワインはブドウの糖をそのまま発酵させるし、ビールは麦芽の酵素で糖化する。麹菌という微生物を使って糖化と発酵を進めるのは、日本酒と焼酎(そして泡盛や紹興酒)に共通する特徴で、2006年には日本醸造学会が麹菌を「国菌」に認定している。
蔵で麹室(こうじむろ)に入ると、温度30度以上、湿度たっぷりの空間で蒸し米の上に麹菌が広がっていく。この作業は日本酒でも焼酎でも基本的に同じだ。48時間ほどかけて丁寧に麹を育てる。この麹が良くなければ、日本酒だろうが焼酎だろうが美味い酒にはなりにくい。
つまり、途中まで同じ道を歩いてきた兄弟が、蒸留という分岐点でそれぞれの道に進んだ。そんなイメージが一番近いかもしれない。だから焼酎が好きな人は日本酒の味わいのどこかに親しみを感じるかもしれないし、逆もまたしかりだと思う。
焼酎好きにこそ試してみるのもいい日本酒の飲み方という記事でも書いたけれど、焼酎の好きなところを入口にして日本酒に手を伸ばしてみると、意外な発見がある。レモンサワーだって焼酎以外で作れるし、固定観念を外すと酒の楽しみ方がぐっと広がると思う。同じ「違い」の切り口では日本酒とワインの違いも面白い。蒸留の有無で分かれる焼酎と日本酒に対して、ワインと日本酒は同じ醸造酒なのに発酵の仕組みがまったく違う。
焼酎と日本酒、違う酒だけど同じ根っこ。麹の力で造る、日本の酒だ。