ミライザケ — 秦野のテロワールを醸す、金井酒造店の実験室
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テロワール。もともとはワインの世界の言葉です。ぶどうが育つ土地の土壌、気候、地形、そして水。そのすべてが一本の酒の個性になる、という考え方。フランスのワイン産地では、隣り合う畑のワインでも味が違う、その違いこそが価値だとされてきました。
では、日本酒で同じことをやったら、どうなるのか。
金井酒造店が「ミライザケ」というシリーズで挑んでいるのは、まさにその問いです。秦野という土地が、その年に蓄えたもの。それを混ぜ物のない形でそのまま瓶に封じ込めて、飲み手の身体に直接手渡す。蔵のなかの小さな実験室で、毎年、その問いが更新されています。ここでは、ミライザケが映そうとしている「秦野という土地」を、水から、米から、そして人の文化から、じっくりたどってみます。少し長くなりますが、一本の酒の向こうにある土地の話だと思って、読んでみてください。
※ 写真はイメージです
目次
「テロワール」を、日本酒で
日本酒は長いあいだ、「どこの米か」より「どう磨いたか」「どんな酵母か」で語られてきました。技術の酒、といってもいい。けれどミライザケが見ているのは、その手前です。
どれだけ技術を尽くしても、原料が育った土地の性格は消えません。むしろ、手を加えすぎないほうが、土地の声はよく聞こえる。だからミライザケは、磨きや酵母で個性をつくり込むより、秦野の水と米が「もともと持っているもの」をいかに損なわずに瓶へ移すかに重心を置いています。テロワールを日本酒で正面から実践している蔵は、全国を見渡してもまだ多くありません。
秦野 — 神奈川で、ただひとつの盆地
ミライザケの話は、秦野という土地の話から始めなければなりません。
秦野は、神奈川県でただひとつの盆地です。北に丹沢の山々、南に渋沢丘陵。三方を山に囲まれた地形が、独特の気候をつくります。日中は暖かく、夜は山から冷たい空気が下りてきて冷える。この昼夜の寒暖差が、米にも、酒にも効いてきます。寒暖差は作物の味を濃くし、低温で進む発酵は酒の香りを繊細にする。盆地であることは、秦野が酒の里であることの、いちばん大きな理由です。
そしてもうひとつ、秦野を語るのに欠かせないのが水です。丹沢に降った雨と雪が、長い時間をかけて地層を抜け、町のあちこちで湧き出す。その湧水群は、環境省の「名水百選」に選ばれています。蛇口の水ではなく、湧き水で暮らしが成り立ってきた町。その水の上に、金井酒造店は立っています。
水 — 蔵の地下から汲み上げる、表丹沢の伏流水
ミライザケに使う水は、よそから運んでくるものではありません。蔵の地下から汲み上げる、表丹沢の伏流水です。名水百選「秦野盆地湧水群」と同じ水脈。口に含むと驚くほどやわらかく、雑味がない。硬度でいえば軟水寄りの中硬水で、ほのかな甘さすら感じます。
水の硬さは、酒の発酵の速さと、仕上がりの質感を左右します。秦野のやわらかい水は、発酵をおだやかに進ませ、角のない、まろやかな口当たりの酒を生む。白笹鼓のあのやさしさも、ミライザケの素直な飲み心地も、もとをたどればこの一杯の水に行き着きます。テロワールという言葉のいちばん奥に、まずこの水があります。
米 — 「オール秦野」へ。減農薬の五百万石と、神奈川の「はるみ」
水が土地の半分なら、もう半分は米です。
ミライザケが使うのは、表丹沢を望む大地で育てた、減農薬の特別栽培米「五百万石」。五百万石は、すっきりとキレのよい酒に向くとされる酒米です。それを、できるだけ秦野の畑で、農薬を減らして育てる。さらに辛口の「奏炎」には、神奈川県の飯米「はるみ」も合わせています。食卓のための米を、あえて酒に使う。これも土地を映すための選択です。
水も米も、できるかぎり秦野で。この「オール秦野」へ近づこうとする姿勢こそ、ミライザケがテロワールを名乗る根拠です。遠くの有名な酒米を取り寄せれば、優等生の酒はつくれるかもしれません。けれどそれでは、秦野の味にはならない。
※ 写真はイメージです
三本三様 — 同じ土地の、三つの表情
ミライザケには、性格の違う三本があります。同じ秦野の水と米から、それぞれ別の角度で土地を映した三本です。
大地 — 土地の力を、そのまま
濾過をしない。加水もしない。蔵が手を加えることを最小限にして、米と水と発酵がつくり出したものを、そのまま瓶に詰めた無濾過原酒が「大地」です。秦野の大地が何を蓄えているかを、いちばん直接的に伝えようとする一本。原酒ならではの濃さと力強さが、一口目から土地の存在感を主張します。ロックにすると角がとれて、また違う表情に。旨みのある肉料理や、濃いめの味つけと好相性です。
大地 — テロワール純米吟醸原酒
減農薬の特別栽培米「五百万石」と、蔵の地下から汲む表丹沢の伏流水で醸した無濾過原酒。濾過も加水もしない、土地の力をそのまま閉じ込めた一本。濃醇で力強く、ロックでも表情が変わります。
720ml ¥2,310(税込)/1800ml ¥3,850
大地を見る →詩歌 — 土地の繊細さを、言葉のように
大地が「力」なら、詩歌は「繊細さ」です。同じ土地の水と米を使いながら、吟醸造りという手法を通すことで、土地の個性がより細やかに表れます。やわらかな口当たりと、上品で澄んだ香り。繊細な料理や、食前の一杯に。冷やしてワイングラスで飲むと、香りの輪郭がきれいに立ち上がります。秦野が生んだ歌人・前田夕暮への敬意を込めた名前とラベルで、贈り物にもよく選ばれる一本です。
詩歌 — テロワール純米吟醸
同じ秦野の水と米を、吟醸造りで繊細に表現した純米吟醸。やわらかな口当たりと上品な香り。秦野出身の歌人・前田夕暮にちなんだ一本で、ギフトにも。冷やしてワイングラスで。
720ml ¥2,200(税込)/1800ml ¥3,740
詩歌を見る →奏炎 — 土地に向かう、蔵の意志
大地と詩歌が「土地の記録」だとすれば、奏炎は「蔵の意志」です。五百万石に神奈川の飯米「はるみ」を合わせ、オール秦野で醸した辛口特別純米。力強く骨格があり、料理と合わせたときに本領を発揮します。秦野最大の火の祭り「たばこ祭」をイメージした名前のとおり、燃えるような熱量のある一本。脂の乗った魚や肉に合わせると、キレが際立ちます。冷やしても、ぬる燗でも。
奏炎 — 辛口特別純米
五百万石+神奈川の飯米「はるみ」を使った、オール秦野の辛口特別純米。骨格のあるキレのよい食中酒。秦野の火の祭り「たばこ祭」から名づけた、熱量のある一本。冷やでもぬる燗でも。
720ml ¥2,200(税込)/1800ml ¥3,740
奏炎を見る →詩歌という名前 — 秦野が生んだ歌人、前田夕暮
三本のなかで「詩歌」だけが、人の名前を背負っています。前田夕暮(まえだ・ゆうぐれ)。秦野が生んだ、近代短歌の歌人です。
明治から昭和にかけて、日本の短歌の世界を牽引したひとり。そびえる丹沢の山々や、移ろう自然を、率直な言葉で詠みました。考えてみれば、歌人もまた、この土地の水と風に育まれた存在です。同じ盆地の空気を吸い、同じ山を眺めて言葉を紡いだ人がいた。その土地から、いま酒が生まれている。詩歌という名前には、「土地が文化を生み、文化がまた土地を語る」という、テロワールのもうひとつの層が込められています。
酒に土地の味が宿るなら、言葉にも土地の景色が宿る。詩歌を飲むときは、グラスの向こうに、夕暮が見ていた丹沢の稜線を少しだけ思い浮かべてみてください。
年号は「その年の土地の記録」
大地と詩歌に年号がついているのは、それが「その年の秦野の記録」だからです。気温、降水量、米の出来、水の状態。土地が一年かけて蓄えたものを、そのまま酒に映す。だから同じ「大地」でも、年が違えば味が違います。それは欠点ではなく、テロワールそのものです。
ワインに「当たり年」があるように、日本酒にも本来、年ごとの個性があっていい。ミライザケが伝えたいのは、時間の経過ではなく、この土地がその年に見せた表情です。「未来を醸す」というシリーズ名は、過去を捨てることではありません。明治元年から積み上げてきた技術と記憶を一つも手放さず、そのすべてを未来へ連れていく。白笹鼓という鼓が刻んできた拍子の上に重ねる、新しい楽章——それがミライザケです。ボトルには、その覚悟が年号とともに刻まれています。
山の名を冠した酒 — ヤマザケ「塔ノ岳・ヤビツ峠」
テロワールの実験は、ボトルのなかだけにとどまりません。秦野の土地を、もっと具体的な「場所の名前」で味わう試みもあります。それが「ヤマザケ」です。
表丹沢の登山で人気の山——塔ノ岳、ヤビツ峠。その山の名を冠した日本酒が、ヤマザケです。テロワールとしての丹沢の恵みから着想した一本で、登山やグランピング、ソロキャンプ、バーベキューといったアウトドアの場にもよく似合います。秦野市内とオンラインだけの限定品。山を登った人が、その山の名の酒を蔵で買って帰る——土地と酒が、これ以上ないほど近づく一本です。
ヤマザケ「塔ノ岳・ヤビツ峠」(箱付き)
表丹沢の人気の山の名を冠した、丹沢の恵みにインスパイアされた日本酒。秦野市内・オンライン限定。登山やアウトドアのおともに、秦野土産にも。
セット ¥2,860(税込)
ヤマザケを見る →どれから飲む? — 選び方とペアリング
迷ったら、こんな選び方を。しっかりした飲みごたえ・肉料理なら大地。繊細な料理・贈り物・香りを楽しみたいなら詩歌。辛口でキレのある食中酒なら奏炎。山やアウトドアの一本、秦野土産ならヤマザケ。
いちばんのおすすめは、性格の違う二本を飲み比べること。同じ秦野の水と米から、これだけ違う表情が生まれるのか、と驚くはずです。それこそがテロワールの面白さで、産地の個性を舌で確かめる体験になります。ギフトには、大地と詩歌のように「力」と「繊細さ」を組み合わせると、贈られた人が土地の幅を味わえます。
ミライザケが属する「もうひとつの音」の世界はササノネ — 日本酒蔵が奏でる、もうひとつの音に、蔵そのものの来し方は金井酒造店という蔵のことに、笹の物語の全体像は笹の物語にまとめています。土地そのものを歩きたくなったら、秦野観光ガイドもどうぞ。